DOLLAR RIVISED


Shooting Stars
Carrere CAL111
1979

Pilot と同じ頃、Guys'n'Dolls という男女それぞれ3人から成るグループがあった。デイモ
ン・ラニアンの短編からその名をとったと思われる彼らは、ユーロビジョン向けにオーディシ
ョンで作られたグループだった。やがて、そこで出会ったDavid Van Day と Thereza Bazar
の二人が組んで、Dollarが誕生する。 1979年のことであった。Guys'n'Dolls時代は褐色
だった髪を、その方がアピールするからと揃って金色に染め、ヴィジュアル面のみならず、
サウンド面でも相当に考え、プロデューサー選びやミュージシャンの起用まで緻密に計算
した音作りだった。しかし、彼らはそれらを甘いルックスと甘い声、流行の曲調の陰に巧み
に隠してしまっていた。ただのキャンディ・ポップ、当時の人々の大半はそう思っていただ
ろう。実は私もそうだった。

折しも、ダンス・ミュージックが流行り始め、英本国ではBucks Fizz (Ianが曲を提供したり
バックを務めたりしている。近々取り上げます)とよく比較されたりしていた。だが、ダラーが
彼らと決定的に違っていたであろう点は、ダラーには自分達のしていることが全て分かって
いたに違いない、という事である。二人はかつて恋人同士だった。Guys'n'Dolls時代に恋に
落ち、その後同棲を経て一旦は別れるが、恋愛関係を解消した後も、ビジネスのパートナ
ーとしてお互いを選び、ダラーを結成したのだ。気が向くとまた一緒に暮らしたりもしていた
という。そんなことさえも、彼らにとっては戦略の一部として有効だったのだろう。

なるほど、ジャケットを見る限りではルックスだけのデュオと思われても仕方がないかもしれ
ない。でも、聴いてみると惹きつけられる。ルックスだけではヒット・チャートの常連でいられ
るわけもない。彼らには確かに力があったのだ。

まず、自作半分、カヴァーと外注半分という割合だが、曲がいい。バックを固めるミュージ
シャンが実力派揃いなのでサウンドがしっかりしている。それに乗る彼ら二人の声がいい。
特に、テリーザの声がまた何とも甘ったるくて可愛い。そして、プロデューサーの選択眼の
確かさと、おそらくはそこから学んだのであろう、後期にはセルフ・プロデュースも見事にこな
している点にも注目すべきだ。もしもどこかで見かけるようなことがあれば、タダ同然の値段
で手に入るはずなので、騙されたと思って買ってみて欲しい。どれをとってもいいアルバム
だから。ソロ作品としても、デイヴィッドはシングルを数枚、テリーザはアルバムを一枚残して
いる。いずれもダラーの路線から大きく外れてはいないし、質の高いものだと思う。特にテリ
ーザの“A Big Kiss”は好きなアルバムの一つである。また、あまり知られていないことだが、
デイヴィッドのシングル ”Young Americans Talking” にはイアンがギターで参加している。

さて、我らがビリーとの関係だが、ダラーの作品には全て何らかの形で関与している。オリ
ジナル・アルバム3枚には全て参加しているし、後期、シングルしか発表されなくなった頃
でも名前はクレジットされている。個人的にも彼らとは気が合っていて、特にテリーザとは
亡くなる直前まで親交があった。

彼らは3枚のアルバムを立て続けに発表した後、シングルを散発的に出しながら消滅して
しまう。ベスト盤は数種類出ている。日本では、世界歌謡祭に出場した関係で、独自の編集
によるアルバムやシングルも出ており、結構本国のマニアには評価が高いアイテムが多い。
但し、CDは今のところ、ベスト盤のみ2種類しか出ていないし、それも今ではほとんど見かけ
ない。最後のシングルは1987年の「オー・ラムール」。もしかしたら、ビリーの名前が見られる
最後のレコードかもしれない(但し英国盤。日本盤ではクレジットがすべて省略されてしまっ
ている)。現在二人は別々の相手と結婚生活を送っている。デイヴィッド・ヴァン・デイは英国
で別の若い女性とダラーを再結成してライブ活動をしているという。テリーザ・バザーは
オーストラリアに移住、男の子の母親になって引退してしまった。関節炎に悩まされている
とも伝えられるが、「もう歌いたいとは思わない」 と語ったそうで、非常に残念でならない。
もう一度だけでも彼女の気が変わらないものだろうかと、私は今も思っている。

追記:2002年に英国でDollarがデイヴィッドとテリーザによって一時的にだが再結成され、
インタビューなどのテレビ番組も放映された。 さすがにデイヴィッドは少々身体が重そうに
なり、テリーザの目元にはシワが刻まれていたが、二人ともまだまだ充分に魅力的だった。
デイヴィッドは観光地でハンバーガー・ショップを経営し、テリーザはオーストラリアで主婦と
して母として幸せに暮らしているという。またこんな奇跡が起こるといいな、と私は思っている
(03.03.18)。

The Paris Collection
WEA K58246
1980

The Dollar Album
WEA DTV 1
1982



FREUDIANA


Freudiana
EMI CDP 79 5415 2
1990

ロールシャッハ・テストのような奇妙なジャケット、一見しただけではアーティスト名は分から
ない……これはそんなアルバムである。名義は一応 Eric Woolfson だが、中身はAPPと
言ってしまっても構わないだろう。ステージ・ミュージカルのために書かれた曲を集めたもの
で、Woolfson はこれ以後 Alan Parsons と袂を分かち、ミュージカルの世界に入ってしまう。
数年前にはやはり仕事がらみの訴訟に負けて破産宣告を受けたりしながらも、現在も精力
的にミュージカルの世界で活躍中だ。

フロイトの生涯を舞台化したというこのCDには、厚いブックレットが付いている。曲毎に
異なるヴォーカリストを採用するというAPP方式はこのアルバムでも健在で、本人の他にも
Leo Sayer, Graham Dye, Kiki Dee, Eric Stewart, Chris Rainbow, John Miles, Flying
Pickets, Marti Webb といった魅力的な面々が揃っており、御大APは作曲で関わっている。
プロデューサー・エンジニアとしてもクレジットされているが、これは殆ど名前だけのことらしく、
実際には Woolfson のソロ・プロジェクトと言える。

APP名義ではないために看過されがちだが、彼らを知る上では外せない一枚だと思う。勿論、
ギターはイアンである。2枚組LP、カセット、12インチ・シングル、キャスト・レコーディングによる
CD等を確認済み。普通のCDは今でも手に入るので、見かけたら手に取ってみてほしい。



LADYHAWKE (original sound track)



Ladyhawke
(original sound track)
GNPCrescendo Records
GNPD 8042
1995(1985)
中世を舞台にした伝説の映画化で、ビデオは今でも廉価版が手に入るし、大概のレンタル・
ビデオ店には置いてあるはず。そのくらい根強い人気のある作品らしい。ビデオの方は
ミシェル・ファイファーとルトガー・ハウアーとマシュー・ブロデリックのファンが支えているの
だと思うけれど(この映画でも、ミシェル・ファイファーは本当にきれいだ。ウェストを紐で
括った粗末な貫頭衣一枚に少年のようなぼさぼさ頭なのに、見とれてしまう)、サントラが
CD化されたのは、きっと世界中に散らばるAPPファンのおかげなのだろう。というのは、
このアルバムがCD化された最大の理由というのが、ブートレッグが横行していたためだと
いうからだ。初めてその理由を聞いた時は、正直驚いたものだ。このアルバムにそんなに
人気があるとは!私見だが、中世を舞台にしたこの映画には、あまりAPPサウンドは
似合わないような気がするのである。折角アンドリュー・パウェルが担当しているのだから、
もっとオーケストラを多用した方がよかったようにも思うのだが、その辺は好みもあるから
これ以上言うのはよそう。音楽はもろにAPPである。誰が聴いても聞き違える気遣いは
ない。そして、非常に珍しいことに、この映画では演奏者のクレジットまできちんと入る。
我らがデイヴィッドやイアンの名前がスクリーンに映し出される瞬間は、ちょっとどきどきする。
このサントラにも当然名前は入っている。

LPとCDではジャケットが全然違うので注意されたい。写真はCDだが、LPはキャストの顔が
点描風のイラストで描かれている。そして、CDにはボーナス・トラックが9曲も付いているので、
これから買うという方にはCDをお勧めします。


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